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先日の東京支部の皮膚科学会で,「日本の皮膚科治療の問題点―世界標準治療との違い」のシンポジウム講演を行ったところ,演者として来日していた中国,韓国,台湾,タイの先生から,なぜ日本は昔からある世界標準薬が使用できないのか,との質問を受けた.それは,日本の指導的立場にある医師の多くに利益相反がある,または皮膚科治療を知らない可能性があると答えたところ,納得していた.もし日本の医師が前者であれば患者に対する背信行為であり,後者であれば皮膚科医の資格がないことになる.米国では臨床,教育,研究の3種類の教授がおり,それぞれ役割分担がある.しかし,日本では研究業績がある人が教授になることが多い.実際,日本の皮膚科教授の多くは,留学経験があるが,いずれも研究目的で,基礎医学に留学していることも少なくない.このような研究者は,患者をみても検査材料としてとらえてしまい,さんざん血液や皮膚を採取したあとに,手に負えなくなると内科に送るという習慣が身に付いてしまいがちである.しかし,日本ではいったん皮膚科教授になれば,臨床や教育も行わなければならない.そのため,過去の治療を踏襲するか,製薬会社に治療の教えを乞うことになる.当然,製薬会社は自社製品の売り上げのために,このような研究者を取り込み,利用する.その結果,日本の皮膚科治療は利益相反に基づく影響が大きくなり,世界標準治療は無視されることになる.そして,この治療が医局員や学会員に教えられる.実際,非常識な治療をしていた開業医に,どうしてそんな治療をするのか質問したところ,学会の講演で聞いた治療法であると言われた.学会が不適切な治療を教えているのであれば,由々しき問題である.私は重症のアトピー性皮膚炎患者をたくさん見ているが,その原因のほとんどは不適切治療によるもので,最強のステロイド外用剤で治療すれば,1~2週間で劇的に改善し,その後はスキンケアを行うだけで長期間コントロールができ,副作用もない.アトピー性皮膚炎患者をよくすると,治験の対象にならず,また研究のための検査材料を採取することができなくなるために,不適切な治療をしているのであろうかと勘ぐりたくなってくる.このままでは,日本の皮膚科は世界から取り残され,その存在意義をなくしてしまう.日本の皮膚科治療が欧米はもちろん,アジア諸国より劣っているのにもかかわらず,今まで何もできなかった反省を込めて,このあとがきの筆を下ろすことにする.
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