- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
昨年の某学会のことである.座長が,まだ時間は十分あるにもかかわらず,特定の質問を遮断していた.原因は座長の利益相反(conflict of interest:COI)のために,反対する質問を受けなかったのである.同様なことは他の学会でもあり,シンポジウムや教育講演に,COIがある演者を指名して,特定の製品を宣伝していることが少なくない.現在演者は必ずCOIを開示しなければならない(ただし日本皮膚科学会では年間100万円以上の謝礼がない企業はCOIなしでよい)が,座長やオーガナイザーのCOIは開示されていない.COIがある演者だけの教育講演やシンポジウムはまさにスポンサードセミナーと同じで,公正とは言えない.講演の目的は,多くの医師が患者に安価で有効な治療を提供できるようにするためであって,メーカーの収益のためではない.もちろんCOIがある人にオーガナイザーを頼む学会側にも問題がある.同様な問題が雑誌にもある.具体的には投稿された論文の査読者が特定のメーカーに有利な論文を採択し,それに反する論文を掲載させないことである.そのため印刷された論文だけをみると,実際の治療効果と異なることがある.それがN Engl J MedやBMJなどの一流雑誌で取り上げられ,数年前からselective publicationとして問題になっている.そのため今や査読者のCOIの開示が求められ,出版社もその責任を負うことになっている.つまり学会での討論や出版に際しては,自由活発な意見がなくてはならず,それを阻むのは問題である.特に教育講演やガイドライン作成では特定のメーカーとのCOIがない人を1人でも多く加えないと公正なものにならない.現在本誌の査読者の1人である私は,COIにとらわれない査読を常に心がけている.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.