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近年の医学の進歩に貢献したベストテンの中にEvidence Based Medicine(EBM)がある.EBMは,単に動物実験より類推された論理や権威者の意見に左右されることを回避し,知りうるかぎりの疫学などの研究成果や実証的・実用的な根拠を用いて,効果的で質の高い患者中心の医療を実践するための手段である.そのためには質の高い情報収集がその鍵を握り,その結果として治験論文が注目をあびるようになった.しかし,ここに大きな落とし穴がある.つまり,確かにランダム化比較試験かもしれないが,二重盲検比較試験でない治験も多くある.特にわが国の治験はactive placeboとの比較試験であるため,外用薬の場合は二重盲検比較試験にならず,単盲検である.また,ダブルダミーが可能な内服薬でも二重盲検となっていないものもある.こうなるとデータを恣意的に操作することが可能になってしまう.そのため,その治験が良心に基づいて行われていない場合は,大きな問題を生ずることになる.そこで米国では,治験医師は利益相反(conflict of interest)を公表する義務があり,その論文がメーカー主導で行われているかどうかの判断材料を読者に提供している.さらに情報収集の網からもれることを防ぐために,メーカーに不利な治験結果が出た場合も,米国では公表しなければならない.ところがわが国ではこのような仕組みはまだ整っておらず,ようやく本誌でも利益相反を記載するようになったばかりである.そして最も問題なことは,多くの治験論文は,治験結果の根幹となる診断は正しく,評価も正確に行われていることを前提にしていることである.診断や評価の誤差が大きいと,どんな薬剤も比較試験で有意差がつかなくなる可能性が高くなる.有意差がない場合,両者が同じだとは限らず,診断や評価の誤差が大きかった可能性を排除できないからである.したがって米国では,placeboとの比較試験で有意差があった薬剤だけが認可される.
確かにEBMはわれわれに多大な恩恵をもたらしているが,論文の質を評価する際には,その前提となる診断や評価法などを細かく吟味すべき時代になっているのかもしれない.
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