- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
保湿剤は肌に潤いを与えるもので,英語ではmoisturizerと呼ばれる.海外のmoisturizerの役割は正常皮膚に保つことで,その用途は乾燥肌と油性肌に対するものである.そして前者はワセリンベースの軟膏が主なもので,後者はローション基剤のものである.基剤に含まれる成分には種々のものがあるが,その働きに明確なエビデンスはなく,保湿剤の用途を大きく左右するものは基剤である.ひるがえってわが国の皮膚科領域で使用する保湿剤は皮膚の水分蒸発を防ぎ,皮膚を保護するものと理解され,乾燥肌をターゲットとするもののようである.その意味ではわが国の保湿剤は英語のemollientに相当するかもしれない.しかし多くの日本の皮膚科医は基剤の役割を十分理解していない.例えばローション基剤の保湿剤と称するものを乾燥肌に使用している医師がいる.処方された患者は余計に皮膚が乾燥する.おそらくは通常の保湿剤を夏に使用すると皮膚がべとつき,患者がいやがるので,ローション基剤の保湿剤と称するものに変更したものと思われる.患者のなかには保湿剤によりアトピー性皮膚炎が治ると洗脳されている人もいるため,ローション基剤の保湿剤と称するものを一生懸命使用する.しかし冬季になるとかえって皮膚が乾燥して,アトピー性皮膚炎は悪化する.実際このような患者は多い.そもそも保湿剤はアトピー性皮膚炎や尋常性痤瘡の治療薬ではなく,皮膚を保護するものである.ステロイドやレチノイド外用薬を使用する前に保湿剤で皮膚を覆っては,肝心の治療薬の浸透が悪くなる.ワセリン基剤の軟膏は,それ自体に保湿効果がある.そのためステロイド軟膏は保湿効果を合わせ持つ治療薬である.かつて脱ステロイド療法を提唱した基礎系アレルギー学者のなかには,高名な皮膚科医がいた.その影響は大きく,今でも脱ステロイド療法を信ずる患者はいるし,不適切治療を行っている医師もいる.皮膚科医がまた同様の過ちを犯すのであれば,皮膚科医の存在意義を失うことになる.日本の皮膚科治療は,欧米はもちろん,東南アジア諸国より遅れていることを認識しなければならない.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.