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私は,数年前よりタイのバンコクにあるInstitute of Dermatologyで,皮膚科のレジデントに年に8回の講義を行っている.そこで感じたことは,日本の皮膚科の医療レベルが必ずしも高くないということである.確かに日本の研究レベルは欧米に匹敵し,東南アジア諸国と比べると,比較にならないほど進んでいる.しかし,わが国の実際の診療レベルは,欧米はおろか東南アジアの国々よりも劣っている気がしてならない.実際,バンコクの皮膚研究所では,日本から毎年10名近くの皮膚科の専門家が講義をしているが,講義内容は臨床医学ではなく,もっぱら皮膚の構造や機能など基礎的なことである.私は,タイ側からレーザー医学や美容皮膚科の講義を依頼されているため,ついでに世界標準となっているニキビ治療の話もする.しかし,東南アジアでは20年近く前からレチノイド外用薬が使用されており,彼らにとって私のニキビ治療の話はほとんど役に立たない.むしろ日本ではレチノイド外用薬が認可されておらず,代わってケミカルピーリングがはやっているという話をすると,日本はあれほどの先進国なのに何故そのような状況になるのか,と質問されてしまう.実際,日本皮膚科学会が出しているケミカルピーリングのガイドラインには,適応とならない疾患まで適応ありと記載してあり,多くの問題があるが,未だに訂正されていない.また,数年前に日中皮膚科学会で,イトラコナゾールの400mg パルス療法の治験結果を発表した時も,中国のドクターから何を今更という顔をされたのを覚えている.つまり,日本の医療はいくつかの問題点を抱えているが,特に治療面では,世界標準治療薬を使えないという問題がある.その結果,アトピービジネスならぬ美容ビジネスがはやり,薬剤の個人輸入という弊害も生じている.その一方で,欧米では有効性が認められていない疾患に対しても,日本では保険の適応がとれている薬剤もあるという矛盾もある.一度日本の皮膚科医も海外に出て,そこで行われている実際の診療をみてみると,日本の皮膚科診療の良い所,悪い所がよくわかるようになるかもしれない.
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