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昨年の秋に,ようやくわが国でもレチノイド外用剤であるディフェリン®が認可され,わが国のニキビ患者もその恩恵を受けることが可能になった.しかしディフェリン®は,海外では特許が切れた薬剤で,決して新しい薬ではなく,東南アジアでは10年前から使用されている.またこの薬剤の登場で,日本のニキビ治療が世界標準に近づいたわけでもない.Cystic acneとか集簇性痤瘡といった重症ニキビ患者の第一選択薬であるイソトレチノイン(経口レチノイド)や耐性菌を生じない外用抗菌薬benzoyl peroxideは,海外では20年前から使用されているが,日本では認可されていない.したがって,日本は今でもニキビ治療に関しては,アジアの中で最も遅れた国の一つである.問題なのは,これがニキビ治療に限らないことである.特に問題なのは医療機器で,内視鏡など一部の分野では,わが国はトップレベルにあるが,他の医療機器や人工血管などの消耗品では,アメリカで製造中止となったような古いものや問題のあるものが輸入され,日本で使用されている.なぜならば,十分に有効性と安全性が確かめられていても,もう一度日本で治験をしなければ保険承認が下りないからである.米国での治験は,白人ばかりでなく,黒人やアジア人など多人種が被験者となっている.もう一度日本で治験を行わなければならない理由はない.わが国で治験を行えば膨大なお金と時間がかかるため,その医療機器が認可された時には,すでに時代遅れになってしまっていることが多い.最新鋭の医療機器を使用したほうが,故障も少なく耐久性もよいので,患者のためになるのであるが,国の認可が下りていない器械や材料を使用した場合は,私費診療にせざるを得ず,混合診療を認めていないわが国では,金銭的な問題が大きくのしかかることになる.その結果,時代遅れの医療器械を使用せざるを得ず,医療事故の要因になり,人工心肺装置では死亡につながることになる.ニキビのように命にかかわることが少ない疾患でも問題であるが,命に直結する医療機器がアジアの最低レベルだとすれば由々しき問題である.
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