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今年もタイのバンコクにあるInstitute of Dermatologyで,レーザー医学・美容皮膚科の講義をするときになった.1日3時間の講義で,異なる内容の講義を8回行うので,最初はスライドを作るのが大変で,この仕事を引き受けたことを大変後悔したものである.生徒は毎年30人ほどであるが,半数はタイ以外の東南アジア,南アジア,中近東から来た生徒で,また皮膚科のキャリアもさまざまである.最近は,スライドを少し修正するだけでよいので,生徒達との会話を楽しみにしている.なぜならば,彼らは母国語の教科書がないのでFitzpatrickやRookの教科書で勉強をしている.そのため彼らは世界標準治療薬をよく知っているし,その治療経験も豊富な人が多い.しかもタイも含めて彼らの国では,日本のような厚生労働省の縛りがないため,世界標準治療薬を当たり前のように使用できる.昨年は偶然,円板状エリテマトーデス(DLE)の治療が話題にのぼったが,彼らはDLEには原則としてステロイド外用薬を使用すべきではないと言っている.確かに初期病変ではステロイドの外用は選択肢の1つにはなるが,ステロイド外用薬を使い続けると,ますます皮膚萎縮が目立つようになるので使用すべきではないということである.では彼らは何を使うかというと抗マラリヤ薬である.日本でもかつてクロロキンがDLEに使用されたことがあるが,網膜症という重篤な副作用のため,使用されなくなった.しかし,世界には古くからジヒドロクロロキンというほとんど網膜症を起こさない薬が存在している.「日本ではマラリヤがほとんどないので,抗マラリヤ薬は必要ない」と言うと,「じゃDLEの治療はどうするのだ」,「DLEの治療のときに困るだろう」と言われる.これは日本の治療手段が東南アジアと比べ,かなり遅れていることを示す単なる1例に過ぎない.このことを日本の医師はもっと認識すべきである.他の学会ではこれを是正すべく,厚生労働省へ提言を行っているところもあるが,日本皮膚科学会の対応はまだ十分とは言えない.これは,指導的立場にある日本の皮膚科医がこのことを知らないからかもしれない.
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