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はじめに
下咽頭癌の治療成績は,同じ扁平上皮癌でありながら,他の頭頸部癌に比較して著しく悪い。その原因についてはいろいろ云われているが,その主だったものを列記すると,1.患者母集団の特徴
1)アルコール度の強い酒の飲酒習慣で肝機能が悪く全身免疫能が低下しているものが多いこと,
2)同時あるいは異時重複癌として発症するものが多いこと,
3)高齢者が多く,いろいろな臓器機能不全を伴っていて十分な治療ができないものが多いこと,
4)頸部リンパ節転移や遠隔転移を伴うものが多いこと,
2.領域特性
5)初期癌早期癌では自覚症状が乏しいために受診が遅れ,発見された時にはすでにstage IIIの進行癌になってしまっているものが多いこと,
6)粘膜下のリンパ流が豊富で,これによって周囲へ浸潤する特性から,下咽頭腔に顔を出さない粘膜下不可視病巣が広範囲に拡がっていたり,食道にskip lesionを伴うことがあり,これらに気付かないで取り残す危険があること,
7)嚥下の度に下咽頭収縮筋の強い収縮が起こるから,あたかもポンプで水を押し出すように癌細胞の転移を助長していること,
8)容易に喉頭へ浸潤し,音声機能喪失への苦悩から合併切除を困難にしていること,
3.腫瘍生物学的特性
9) S期細胞標識指数が大きく,EGF-R産生蛋白,p53産生蛋白,Int−2産生蛋白などの増殖活性関連因子が強い発現性を示し,他の頭頸部扁平上皮癌よりも悪性度が強いこと,
10)癌巣周囲膜でのIV型コラゲン発現性に乏しく,易転移性が強いこと,
11)癌細胞自身がIV型コラーゲナーゼやカテプシンDなどのメタロプロテイナーゼを産生するものがあり,易転移性を増強している可能性があること,
などを挙げることができる。これらの詳細についてはすでに報告1〜10)してあるので参照されたい。
このような,下咽頭癌の特性が少しずつ明らかのなるのつれて,そのつどそれの対応させて治療コンセプトの修正がなされてきた。著者らの治療した症例のついても同様で,その治療方針は一律ではなく,時代と共の変遷した。そこでここでは,それに伴う治療成績の変化のついて述べる。計画的に行われた治療法別比較研究ではなく,時代の変化に伴ってそのつど変更された治療方針のよる結果の分析であるから,厳密な統計学的比較検討は当然不可能であるが,成績の変動を振り返ってみることはそれなりに有意義であろうと考えている。
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