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10年にわたって医学部の4年,5年のBST (bed side teaching)を担当したので,ほとんど毎週20代前半の若い人たちのグループを教える経験をした。BSTでは最初のころ白内障手術に関して教えていた時期があり,私は学生にする話に時事や世間話を盛り込むのが好きなので(ついでに笑いも取れたら嬉しい),当時白内障/IOL手術の体験記を出版していた現代文字の曽野綾子や吉行淳之介を話題に出したが,9割以上の学生はこれらの作家の名前を知らなかった。もちろん作家ということを知らないのだから作品を読んだこともない。で,私が「えっ?? 本当に知らないの」と思わず言ってしまうと,(そんな作家の名前なんて知らなくてもいいでしょ,何くだらんこと聞いてくるの,この先生は……)の表情が学生の顔に浮かび,続いて座がしーんとなってしまう。私としては,学生が手術を身近に感じて興味を持てば,おもしろいBSTになると思い,まさか知らないとは思わず話に出したのだが,知らない作家の話をふっても,何の足しにもならない。
BSTは,通常は8人のグループで回ってくるのだが,年度末は人数割りがうまくいかない端数処理のような感じで,突然4人のグループの時期がある。すると俄然,BSTが最高のでき上がりになるのだ。そこで,私が今にして思うのは,いわゆる小グループ教育の人数は8人では多すぎて4人程度が適当なのではないか,ということである。曽野綾子や吉行淳之介でしらけたのは,学生の数も関係あったのではないかと思うのだ。というのは,学生を教えていて,ときには学生の教わる側としてのマナーのなさに頭の血管が切れそうになったり,学生の不真面目な態度にあとあとまでいやな気分が持続したりするのだが,これが4人以下のグループのときは,すべてのグループで思う存分教えることができ,学生たちも活発に質疑応答し,楽しい充実した思い出が多い。4人だと,このうちの1人に質問していても他の3人は真剣に聞いている。しかし8人の場合,他の7人のうちに心ここにあらずで往々にして教師の目前で平気で眠りだす失礼な奴がでてくるのである。学生8人に教師1人は,物理的にも,というより私のオーラ不足かもしれないが,何だか教師が弱い感じになってしまうのだ(黒い羊に囲まれた白い羊,といったら学生が怒る?)。
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