やさしい目で きびしい目で・184
患者さんの思いに心寄せて
片上 千加子
1
1ツカザキ病院
pp.565
発行日 2015年4月15日
Published Date 2015/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410211306
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神戸大学で角膜外来を担当していた頃,角膜移植術を受けた患者さんの喜びの声を綴った文章を読ませていただく機会があった。そこには日常診療からは窺い知れない患者さんの思いがしみじみと込められていて,思わず胸がいっぱいになる。
60歳代の慎み深い女性,Mさんは,「角膜移植を待つ間,私に角膜を提供してくださる方は,今はどこかに生きておられるのだと思うと,手術を早く,と願うことはできませんでした」と,美しい文字で綴っておられた。外来では,角膜移植待機患者さんのほとんどが,「まだでしょうか?」と1日も早い手術を切望されるので,こんな風に考える患者さんがいらっしゃるとは,驚きでもあった。Mさんは順番がきて手術を受けられ,経過良好であったが,その後白内障が進行してきた。白内障手術により移植片の内皮の機能が低下する可能性をお話ししたところ,手術は望まれなかった。いただいた角膜を何よりも大切に思っておられるMさんの気持ちが痛いほど伝わってきた。その思いが通じたのか,その後いよいよ進行した白内障の手術をさせていただいたが,移植片は10年以上経た今も透明性を維持し視力も良好である。
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