特集 摂食制御の分子過程
特集に寄せて
桜井 武
1
1金沢大学医薬保健研究域医学系
pp.2-3
発行日 2011年2月15日
Published Date 2011/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101098
- 有料閲覧
- 文献概要
長い進化の歴史を通じて,生物は常に飢えにさらされ続けてきた。摂食行動の制御システムは必然的に飢えによく対応できるように進化してきた。人類にとってもありあまる食物に囲まれたような環境は,進化の歴史から見ればつい最近,限られた文明国において見られるようになったに過ぎない。飢餓の時代に対応してきた生体システムが対応できるはずもなく,現在,先進国を中心に肥満とそれに伴うメタボリックシンドロームの脅威が広がりつつある。一方,生活スタイルや価値観の多様化のなか,神経性食欲不振症をはじめとする中枢性摂食異常症も増加傾向にあり,この15年ほど中枢による食行動の制御機構はこうした社会的要請も背景にして大きな注目を集めつづけてきた。
とくに1994年,ロックフェラー大学のフリードマンらによるレプチンの発見以来,その視床下部における作用機構の解明が急速に進展し,神経ペプチドを中心にそこで働く神経伝達物質および神経調節因子の機能解明が進んできた。わが国は,大村らによる視床下部のグルコース感受性ニューロン(glucose-sensing neurons)およびグルコース受容ニューロン(glucose-receptive neurons)についての先駆的研究をはじめとして,視床下部による摂食調節の生理学において世界をリードする研究をしてきた歴史がある。また,一方で生理活性ペプチドの研究においても世界に冠たる特色ある研究がなされてきた。視床下部における神経ペプチドの作用が重要な働きをしている摂食行動の制御機構に関しても,必然的に日本の研究者は大きな貢献をすることになった。
Copyright © 2011, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.