特集 情動―喜びと恐れの脳の仕組み
特集に寄せて
伊藤 正男
1
Masao Ito
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター
pp.2
発行日 2005年2月15日
Published Date 2005/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100356
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知情意と呼ばれるこころの3成分に対し,知は感覚,知覚,認知の面から,意は運動の面からアプローチされて大きな成功が収められたが,情の研究は動物行動と自律神経活動の面から進められてきた。認知系が大脳皮質の大きな領域を占め,運動系が大脳皮質,小脳,大脳基底核を含む大きな領域に広がるのに対し,情動系は脳幹の被蓋,側坐核,視床下部から大脳辺縁系,特に扁桃体や帯状回にかけての脳の深部を主要な舞台としている。最近,これらの領域における神経回路構造やニューロン活動についての研究が目覚ましく進歩した。
情動は,感覚,知覚のように情報を処理する機能ではなくて,動物が受けた刺激のもつ情報に対する生物的な価値の判断を表現している。餌や異性のように自己の生存と子孫の維持にとって有利なものは報酬系に働きかけて喜びの快情動をおこし,不利になるものは嫌悪系に働きかけて恐れや怒りの不快情動をおこす。扁桃体が情動の価値を判断し,帯状回前部が報酬への予測によって行動への意欲を高める。そのような脳の価値判断や動機付けの仕組みは現在の機械にはないもので,類推がしにくく,研究が比較的困難であった。しかし,ロボットの進化もあって今後の進歩が待望される研究領域になりつつある。
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