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本シリーズは,その道のエキスパートたちが自らの経験,哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」を解説,明日からの診療に役立つことを目標としている。本書はまさに300ページを超える大冊で,原発閉塞隅角緑内障(PACG)だけで,こんなに充実した内容のテキストブックは国際的に見ても比類がなく,基礎から臨床まで,正にバイブル的存在といえる。この方面のリーダー,澤口昭一・谷原秀信両教授による編集で,計33名のエキスパートが執筆している。分担執筆書はまとまりに欠ける傾向がみられるが,本書は一人の著者がPACGのために苦心し,研究し,学問し,診療してきた大量の経験をつぶさに書き上げたかのように編集され,熱気や息吹が感じられ,全編がそのような魅力で溢れている。またこと細かに問題となる項目を挙げ,アカデミックな立場から,つぶさに,これに答えるような編集は,謎を解くみたいに面白い。読みながら知識が豊富になること請け合いで,教わるところが多い。
澤口教授の総説の要点を押さえながらの語り口が面白い。新潟で眼科医として初めてPACGに接し,後日PACGの頻度の高い沖縄に渡り,幾多の困難と研鑽と疫学調査の末に合理的で最高といえる診療レベルに至った経過が物語風にまとめられている。それはまたPACG学および眼科学の進歩の歴史でもあり,興味深い。本書はこの総説を入れて全体が5つの章からなり,疫学と基礎,診断,治療,白内障手術という具合に,基礎から始まり,最終的な診療に至るまで,順序よく解説されている。PACGに接することが少ない地域でも,ひとたび急性発作が起こったら予後がひどいことを知悉している眼科医にとって,ポイントとなるいくつかのリスクファクター,予防法,検査法,危険管理法,治療の要点,手術法の選択,術後管理等,平生わきまえていなければならないことが解説され,それぞれの項目について明快ながら,あたかも医局で高度の知識と豊かな経験を持つ先輩から,直接こと細かに教えを受けているような記述がなされている。例えば,レーザー虹彩切開術は通常2―3ページ解説されているだけであるが,本書ではほぼ10ページを費やして,適応,手技,成績,合併症と対策など,15の小項目に分けて解説されている。
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