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《眼科臨床エキスパート》という新シリーズが医学書院から新たに刊行されることとなり,『All About開放隅角緑内障』がそのシリーズ嚆矢として出版された。このようなシリーズ本は,かつて『眼科プラクティス』(文光堂)などいくつかが刊行されたが,本シリーズの竜骨はその道のエキスパートの経験とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく〈解説する〉ことにあるとされている。従来このようなシリーズ本では,例えば眼科プラクティス「緑内障診療の○△……」というようなタイトルで,緑内障全体が一冊にまとめられるのが常であったし,また医学書院より2004年に刊行された北澤克明岐阜大名誉教授監修の教科書『緑内障』でも開放隅角緑内障についてはその約十分の一が費やされていたにすぎない。しかるに本書『All About開放隅角緑内障』は開放隅角緑内障に的を絞って約400ページの大部である。眼科の中の一疾患群のさらにその中の一疾患に対して「All About」と題するために400ページ一冊を要するということは,近年の開放隅角緑内障に対する新知識・新知見の集積の速さを実感させられる。しかも,編者が序で述べているように,本書は開放隅角緑内障に関する,最先端も含めた知識のすべてを詰め込んだ百科事典的レビューをめざしたものではなく,精読すべき教科書として上梓されたとある。ページを開いてみると,いわゆる「明日からの臨床にすぐに役立つ」○△シリーズ本とは,少し趣きを異にしている。まず最初に全体の45%の頁数が,開放隅角緑内障という眼疾の本態の理解のために費やされている。この前半を読了しない者は,次の診断,治療の項を読む資格がない。すなわち開放隅角緑内障患者を外来診療する資格がないとまでは言わぬとも,常に病態の本質をわれわれが現時点でどこまでかわかっており,どこからがわかっていないかを理解した上で,患眼を診察・治療すべきという編者の緑内障研究者としての矜持が伝わってくるようである。このような順序で読み進めていけば,診断のために近年開発されたいくつかの新しい方法論の必要性と限界,およびそれらにより得られた所見も理解しやすく,種々薬物や術式の選択の必然性もおのずと読者が理論的に納得できるのではないだろうか?
診断,治療の項を読みつつ,常に前半を参照すれば,開放隅角緑内障の実際臨床と基礎の現在進行形が,より体系的に理解できるようになると思われる。本書により,40歳以上で約4%の有病率と考えられている開放隅角緑内障患者のわが国における診断と治療のレベルが一段とステージアップすることはもちろんとしても,「もっと原発開放隅角緑内障がわかりたい」と思う若い眼科医も増えるのではないかという期待もできそうである。
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