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たった1例の症例報告が疾患概念の大きな変革につながる例を経験します。あるいは多数の症例をじっくりと検討することで,その疾患の臨床像や治療の方針がみえてくることもあります。一方で,行政とも共同して全住民の検診を行うことで,疾患の特徴や新しい概念が生まれてくる場合もあります。日本緑内障学会が中心となって行われた多治見スタディがその1つですし,現在も九州大学を中心に久山町でのスタディが行われています。多治見スタディで,緑内障に関するさまざまな新しい問題点が導き出されたことは素晴らしいことであり,このような疫学調査の必要性を改めて感じました。
今月号は,「緑内障診療の新しい展開」を特集としてお届けします。閉塞隅角緑内障と同じ考え方で,高い眼圧により視神経線維が傷害されると基本的には考えられてきた開放隅角緑内障ですが,眼圧が従来からいわれている正常範囲内であっても視野障害や視神経乳頭の陥凹が進行する正常眼圧緑内障の頻度がわが国では高いことが多治見スタディで明らかになりました。眼圧はもはや緑内障の診断の過程では大きな意味をもたなくなり,視野障害と視神経乳頭の形状が診断の基本となってきています。しかしながら視神経を再生させることのできない現時点では,治療の標的は眼圧の下降です。このあたりに緑内障の診断と治療における循環理論のような難しさがあります。現在でも眼圧は大切な指標です。しかし現在私たちが用いている眼圧計はあくまで角膜が正常であるという前提で計測しているわけですから,角膜移植術後や瘢痕により角膜が菲薄化している場合や,角膜屈折矯正手術を受けておられる方などでの眼圧の読み値と真の値の違いに注意を払う必要があります。どうぞ今月号の「臨床眼科」をお楽しみください。
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