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このたび「日常みる角膜疾患」という連載を開始することになりました。ここでは,実際に私たちが経験した症例を最初に呈示し,その症例での問題点をご一緒に検討していきたく思います。いわば誌上症例検討会のようなものです。基本的に,山口大学での臨床カンファランスの症例を中心にお届けしますので,読者の先生方にとってはあたりまえの症例もあるかもしれません。先生方の知識のリフレッシュにお役に立てばと思います。
角膜の主な機能は,光を眼内に導入することと網膜に焦点を合わせることの2つです。したがって,角膜が原因で視機能が低下するときには,(1)角膜形状の異常と(2)角膜透明性の喪失に大きく分類して考えることができます。前者は,角膜が透明でありながら適切な焦点を結ばないことによる視力低下であり,後者は角膜が混濁し外界の光が眼内に入らない状態です。角膜形状異常には,円錐角膜や瘢痕などで角膜の形状が全体的に変化している場合や,点状表層角膜症(SPK)などで角膜表面の平滑さが失われている場合があります。一方,角膜が不透明である状態も,注意深く観察しますと,(1)角膜内皮機能不全,上皮欠損や高眼圧などにより上皮あるいは内皮細胞のバリア機能が低下して角膜実質や上皮下に生じている浮腫,(2)免疫反応や感染症の活動期にみられる炎症性細胞などの浸潤,(3)角膜疾患が治癒した後にコラーゲン線維やプロテオグリカンが新しく合成され,いわゆる瘢痕治癒している状態,(4)角膜ジストロフィなどの遺伝性疾患での異常タンパク質や,新生血管から漏出した脂質などの沈着などがあります(図1)。これらの大きな分類は,1つの角膜の中でさまざまに組み合わされている例も多く認められます。したがって,単に角膜全体として透明性がなくなっている角膜白斑と診断するのみでは不十分で,角膜の部位ごとに,浮腫,浸潤,瘢痕,あるいは沈着などと鑑別して所見をとることが必要です。的確に鑑別診断を行い適切な治療法を選択するためには,実際の臨床では,原因疾患が同定できず角膜白斑と診断せざるを得ない症例もたくさんありますが,可能な限り所見を鑑別してとることにより,原因となる疾患を推定することができます。角膜疾患の診断名がしばしば所見名であり,病理学的な病因に基づく疾患名でない例があることに注意が必要です。
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