今月の臨床 妊娠と免疫
妊娠維持と免疫
11.脱落膜と免疫
斎藤 滋
1
Shigeru Saito
1
1奈良県立医科大学産婦人科
pp.172-174
発行日 1992年2月10日
Published Date 1992/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409900736
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脱落膜は妊卵が着床し,胎盤形成が行われる組織である。この間に受精卵は脱落膜組織にまず接着し,基底膜をつき破り脱落膜組織内に侵入し,さらに母体血管内へと浸潤し胎盤が形成される。脱落膜組織が母児間のbarrierとして働き,胎盤による内膜侵襲を制御するという考えは1876年Turnerらの報告に始まり,その後森山,須川らによりステロイドホルモン投与により脱落膜化した組織内での移植片の生着期間が延長することが観察された1)。これらの研究はその後,サイトカインのレベルにまで進み,Clarkらは脱落膜中に存在するtransforming growth factor(TGFβ2)類似物質が免疫抑制機序の本態であることを明らかにした2)。これとは別に,Wegmannらは局所において免疫系は抑制されるのではなく,活性化され,種々のサイトカインが分泌されることにより妊娠が維持されるというimmunotrophismを提唱した3),さらに最近,脱落膜中には流血中には〜1%程度しか存在しないCD56bright細胞が80%程度存在することが明らかとなってきた4,5)。本細胞は着床前の子宮内膜中に著増し,妊娠初期にその数は最大となり,妊娠後期では減少することにより,着床および初期胎盤形成に重要な役割を果たしていると考えられる。ここでは脱落膜組織中の免疫系につき,免疫抑制,免疫賦活の両面から解説したい。
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