CURRENT RESEARCH
卵膜および脱落膜の生物学
佐川 典正
1
1京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学講座
pp.219-230
発行日 1997年2月10日
Published Date 1997/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902850
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妊娠中は子宮内容積の著しい増大にもかかわらず子宮筋は弛緩しており,通常妊娠末期まで子宮収縮は起こらない.しかし,胎児が成熟する妊娠末期になると陣痛が発来し分娩に至る.このように妊娠子宮には,胎児成熟と連関した合目的的な子宮筋収縮調節機構すなわち妊娠維持機構が存在すると推定される.一方,胎児は胎盤を介して母体との物質交換を行っているが,胎児と母体側の子宮筋との間に介在する組織としては胎盤の他に羊膜・絨毛膜・脱落膜がある.これらの膜群は,母児間の接触面積の70%以上を占めることからも,母児間の情報交換の場として何らかの生理的役割を果たしている可能性が考えられる.実際,ヒト羊膜や脱落膜にはprostaglandin(PG)生合成の基質であるアラキドン酸のリン脂質からの遊離に関与する各種の酵素が存在していることや,PG合成酵素が存在することも知られている.また,この膜群の胎児側には発生過程のなごりともいえる羊水が存在するが.この羊水中には強力な生理活性を有するcortisol,上皮成長因子(EGF),en—dothelin(ET),brain natriuretic peptide(BNP)などが存在している.したがって,これらが何らかの形で羊膜・絨毛膜・脱落膜に作用し,最終的に子宮筋の収縮を調節している可能性があるのではないかと考えたのが本研究の背景である.
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