特集 卵巣,卵管の手術--最近の焦点
卵巣の保存的手術操作—その必要性と限界
田中 良憲
1
Yoshinori Tanaka
1
1岡山大学医学部産婦人科学教室
pp.1021-1027
発行日 1971年10月10日
Published Date 1971/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204500
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あらゆる生命には自己保存と種族保存の両面があり,人間とてその例外ではない。1個の実存としての個体を主張する現代人でも,種族維持に対する願いは意識するとしないにかかわらず本能的に強く存在している。不妊症の婦人の中には何年も,ときには10年以上も根気よく通院してくる例のあるのは婦人科医なら誰でも経験するところであるが,家庭の事情があるにせよ原始以来の根強い本能のあらわれであり,ホモ・サピエンスの繁栄を約束するものであろう。
生殖現象の具体的中心は性腺と性器にあるのは言うまでもないが,個体の生命維持と直接関係がないため,これらの切除や摘出の手術に対する心理的抵抗は他の領域より少ない。しかし人類の生殖現象への介助はわれわれ産婦人科医に与えられた大きな使命であり,また特権でもあることを考えれば,生殖能力を残しながら疾患から救うことを常に心がけるべきである。この初歩的フィロソフィーを今更のべる必要はないように思う人も多いであろう。しかし知つていることと実行することはまた別の問題である。次の2症例は手術時の状況は不明であるものの,結果論的にはもう少し何とか他の手段はなかつたかと考えさせられた例であり,本稿のintroductionとして提示したい。
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