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■患者の不満足が研究のきっかけ
昨年(2004年)のACR(American College of Rheumatology,米国リウマチ協会)の総会は,10月17日から20日までテキサス州サンアントニオ市で開かれた.17日の日曜日に開かれたReview CourseではPaul Dieppe教授(ブリストル大学,英国)がUpdate on Osteoarthritis(変形性関節症の近況)と題した講演を,2,000人以上の聴衆の前で行った.筆者は土曜日の午後の診察を行った後に渡米したためこの講演には間に合わなかったが,Dieppe教授は講演中に,スライド4枚を使って「2001年から2004年にかけてTodaらのグループが報告した一連の距骨下関節固定付き足底板に関する研究結果は,現時点での変形性膝関節症(膝OA)に対する足底板療法の中で最も信憑性のある有効な治療法である.」と述べたと人伝えに聞いた2~6).そのため,筆者のポスター発表には「Dieppe教授が褒めていた足底板はこれですか?」という質問者が多数訪れ,筆者は感激した.
筆者が,この距骨下関節固定付き足底板を考案したのは2000年2月26日の診察中であった.そのきっかけは,1週間前に採型靴中敷き型足底板を処方した膝OA患者が「この足底板は効き目がないし,値段が高すぎた.まだクーリングオフ期間中だろうから現品を返すから代金を返してほしい」と訴えたことであった.オーダーメードで作成した足底板だから返品されても他の患者に使うことはできないことを患者に十分説明し,謝り,何とか納得して帰ってもらったが,わだかまりが残った.筆者は使い捨てにできるような安価な足底板はできないかと考え,関節リウマチ患者の握力訓練用として某製薬メーカーが無料配布していたウレタンをはさみで楔状に切り,足関節捻挫用ベルト型サポーターの上にボンドで貼り付けた.その足底板を2日後,他の膝OA患者に試してみたところ,足底板を装着してリハビリ室に行ったその患者が診察室に戻ってきて,「歩き出してすぐに膝の痛みが楽になったことに気が付いた」と褒めてくれたので,筆者は自信をつけ,研究してみることにした.つまり,距骨下関節弾性固定によって大腿けい骨角が変化するという結果は後に解明されたことであり,当初は患者の経済的要望のみから開発された足底板であった.そのような足底板がわずか4年半余りでACRのReview Courseで紹介されるようになろうとは,筆者は非常に幸運であったと思うし,はじめに不満を訴えてくれた患者とその2日後に褒めてくれた患者には心から感謝している.
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