Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・7
リヨン回想(2)
若林 利重
1
1東京警察病院
pp.928-929
発行日 1993年7月20日
Published Date 1993/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901207
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リヨンの1ケ月は比較的のんびりと生活した.それでもいろんなことを見聞することができ結構充実した日々でもあった.街の中を動くときは専ら足を使った.歩きながら景色をたのしみモチーフを探してはスケッチした.地図を頼りに1回に4キロメートル以上歩いたこともある.ローヌ河畔,金頭公園などリヨンには景色のよいところが多い.とくにソーヌ河の右岸,フルヴィエールの丘の古い家並みは風格があって画因に富む.何百年も経た古色蒼然たる石の家には今も人が生活している.住人は何代もかわり,家には人々の歴史が刻みこまれている.無心に遊んでいる子供たちにも,洗濯物を干している老婆にも何となくゆかしさが感じられる.
期待していたマレー・ギー教授の手術だけでなく,サン・ジョセフ病院のマリオン教授の手術も見学することができた.マレー・ギーは多少気むずかしいところがあり手術にもそれが感じられたがマリオンの方は対照的にみえた.私がみせてもらったのは超低体温麻酔下での僧坊弁閉鎖不全の弁縫縮術であった.綾取りのように沢山の縫合糸をかけてから,まとめて手際よく結紮していった.手術室には緊張感もなく,むしろ和やかな空気が漂っていた.麻酔を担当していた若い女性は麻酔医ではなく,検査技師のように資格をもった麻酔師である.当時日本では麻酔医の数が少なかったのでこういう麻酔師の制度があったらよいだろうと思った.
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