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「がん対策基本法」および「がん対策推進基本計画」では,がん診療に携わるすべての医師が緩和ケアの基本的な知識・技術・態度を習得することを,わが国のがん医療における重要な課題としています.確かに,われわれ外科医がどれだけ頑張っても,どうしても救えない命は一定頻度で存在します.言うまでもなく,このような患者さんがなるべく苦しまずに穏やかな死を迎えられるよう尽力することは,大切な医療行為です.遠からぬ将来,自分自身が患者になった時には,この点についても十分に対応してもらいたいと考えるので,厚生労働省の方針に賛同いたします.そして,がんに関わるすべての医師が緩和ケア研修を受講しなければならないことになっているわけですが,がんに罹られた患者さんは例外なく不安と闘っておられ,医療者の発言もちょっとしたニュアンスの違いで心ない言葉と受け取られかねません.私などは緩和ケア研修よりも話術や接遇を学ぶ必要があるのではないかと反省しているところです.
もちろん,そうは言っても,自分の手術を担当する外科医には,まずはきちんとした手術手技を勉強してもらいたいですね.そして,一般論として,われらが「臨床外科」の誌面の大部分はそのような内容で構成されていると思います.そうした中,本号では時代のニーズもあり,敢えて「緩和」を特集いたしました.しかし,ただでさえ忙しい外科医にスピリチュアルな領域に深く踏む込むことを要求しようとするのは,決して私の本意ではありません.本特集ではどちらかというと,終末期に近づいた患者さんに対しても化学療法や侵襲的な処置を考慮する話が中心であり,一部の人からは眉をひそめられてしまうかもしれません.ですが,十分な説明と同意の上でこうしたことに踏み切ることが,延命やQOLの向上につながることはあると思います.こうした患者さんに対し,私たち外科医にまだ何かできることがあるのか,そしてそのような医療に何が期待できるのか.日々技術の習得に励む若い先生方に,少しだけ立ち止まって勉強していただければと思います.
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