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わが国における胃癌の診断学は世界でも群を抜いております.「ガン回廊の朝」というノンフィクションには,早期胃癌を診断する能力の向上に向けての国立がんセンター(当時)の医師の工夫と奮闘ぶりが克明に描かれており,学生時代にこれを読んだ私は内科医に憧れたものです.その後,先輩に「内科は頭を使うから君には無理だ」と言われて外科を選んだ私は,今度は癌研の丸山雅一先生が書かれた教科書を読んで衝撃を受けました.外科医が切除標本を板に貼る際の貼り方が気に入らないとの叱責なのですが,「私が撮った胃透視の写真をちゃんと見ていれば,このような貼り方にならないはずだ」というわけで,美しい(?)Ⅱc病変がゆがんで固定されたりしていると,その美意識の欠如に腹が立ってならないといったところでしょうか.その時は驚いたものですが,今は日本人としてこういう感覚を失ってはならないと思っております.
胃潰瘍の手術という機会をあまり与えられることがなくなった私たちの世代ですが,内科の先生方に多くの早期胃癌を見つけていただいたおかげで,若いうちから豊富な手術経験を積み,さらに内視鏡外科手術のような新しい領域にもあまり臆することなく突き進むことができました.それは,先人が定めた早期胃癌の手術が比較的「大きな」手術であったためです.手術の醍醐味を十分に味わうことができる内容である一方で,多少のことがあってもまず再発にはつながらない,すなわち,癌の手術としての安全域が他の術式ではありえないくらい大きな手術であるというのがこれまでの早期胃癌の手術の特徴です.本当によく勉強させていただきました.しかし,早期胃癌の手術もそれでは済まなくなってきました.胃癌の患者さんには高齢者の比率が増えるばかりです.治癒の確率を1%単位でじりじり上げることよりも,術後に自宅で元気に生活できることが優先されるケースも増えてくるのではないでしょうか.いや,欲を言えば治癒の確率を下げずに術後のQOLをじりじりと,あるいは場合により飛躍的に向上させたい.そういう思いを持つ著者の先生方の現在の到達点を勉強しようと思い立って,本特集を企画いたしました.明日の診療に通じる内容を見つけていただき,お役立ていただければ幸いです.
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