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読者の皆様,今年は日本外科学会学術集会に参加されましたでしょうか? 日本外科学会は現在,NCD運営の財源確保やその膨大なデータの有効利用,そして変わりゆく専門医制度への対応という大きな課題を背負っております.新しい専門医制度の枠の中で,将来的には各診療科の適正な医師数を設定しなければならないかもしれません.医師たち自身の手で現状を正しく把握し,将来を見据えて適切な医師数を決め,特定の診療科や地域への医師の偏在をなくすようにすること,すなわちprofessional autonomyを働かせて現在の医療のもつ問題点を解決することが求められております.そして,実際に手術の件数を反映させてその施設,または施設群で受け入れ可能な修練医の数を決めるべきという見解も出ております.しかし現実には,市中病院における消化器外科医は,人数が多いこと,様々な技能をもつことが評価され(と言えば聞こえがよいですが,都合よく利用され,と言い換えることもできます),専門とすべき消化器外科の手術以外にも,その病院で必要とされる様々な業務に携わり,病院を支えています.突然新しい考え方のもとで人数制限を行ったとして,これに伴って腫瘍内科をはじめとする,本来は必要だが今までは育成されていなかった人材の供給が間に合わなくなるようでは,新たな問題が生じてしまいます.
消化器外科の教授は補助化学療法に興味がなく患者さんの愁訴によりいとも淡泊に中止してしまうくせに,化学療法を握って手放さないのでけしからんという腫瘍内科の教授の声を聞きました.一方,たまたま補助化学療法も腫瘍内科で行うようになった関連病院の外科医師から,正直,楽ですよという声も聞きました.大好きな手術だけ行っていればよいという夢のような世界に向けて世の中が着実に動いているとすれば,それを止める理由はありません.しかし,腹膜転移を起こした悲惨な腹腔内の状況を見ることができるのは外科系の医師のみであり,そうした赤裸々な所見をfeed backしないところで癌の基礎研究など成立しないでしょう.外科系の医師は癌をもっとも深く理解し,その研究,そして治療計画立案に欠かせない歯車であるべきであり,腫瘍内科医に言われるがままに必要な技術を発揮するだけの存在になってしまうとすれば,大変残念です.そういう思いを込めた特集テーマで本号を編纂しました.癌の集学的治療の現在の到達点について,学んでいただければ幸甚です.
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