- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
この原稿を執筆しているのは平成31年3月,もうすぐ新しい元号が4月1日に発表され,5月1日には新天皇が即位する.テレビや雑誌など,さまざまなメディアで平成を振り返る特集が組まれている.さて,外科学にとって,平成はどのような時代であったのか? 今から30年前の平成元年,西暦1989年は,私にとって最も思い出深い年である.当時医師になって4年目,駆け出しの消化器外科医であった私は,その年の10月26日に衝撃的な事件…島根医科大学の永末直文先生が行った本邦初の生体肝移植を報道で目にした.そのころはまだ肝臓外科の黎明期,無輸血で父親の肝臓を切除し,血管や胆管を吻合して子供の肝臓と取り替えるなど,“SF小説か漫画の世界でしかありえない手術”であり,社会的にもインパクトは相当なものであった.1980年代はサイクロスポリンが拒絶の制御を可能とし,外科的な手技の発達と相まって臓器移植の成功率が目覚ましく向上した時代である.その流れの中で,1988年に世界初の生体肝移植がブラジルで行われたわけで,翌年1989年に初めてわが国で行われた生体肝移植は,当時の自分にとって偶然の出会いと思われたが,ある意味必然だったのかもしれない.
翌年の1990年9月には,もう一つの革命的手術…腹腔鏡下胆囊摘出術が帝京大学の山川達郎先生によって行われた.世界初の同手術は1987年,フランスのDr. Mouretによって行われたので,その3年後ということになる.私が初めてこの手術を耳にしたのは1990年2月,伊勢で行われた日本消化器外科学会総会に参加した時である.カナダ留学から帰国したばかりの先輩,大上正裕先生が目をキラキラ輝かせながら,われわれ若手の前で熱く語っていたのを思い出す.「ボストンまで腹腔鏡下胆摘を見に行ったのだけど,次は絶対にこれが来るぞ,オヌシらわかるか!」.当時の私には何が凄いのか理解できなかったが,その後の鏡視下手術の隆盛を見れば,如何に大上先生に先見の明があったかが良くわかる.大上先生は日本の腹腔鏡下手術の創始者の一人であり,その貢献を称え,日本内視鏡外科学会に大上賞が創設された.
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.