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お盆休みに実家に帰った時に,今から30年以上前の学生時代によく聞いていたLP盤レコードの山を見つけた.残念ながらプレーヤーが無いのでもはや聞くことは出来なかったが,当時バイト代をはたいて買い集めたコレクションは,さすがに眺めているだけで懐かしい.僅かに波打ちながら回転するLP盤にプレーヤーの針を落とす瞬間の緊張感が蘇ってくる.レコードジャケットは大きさがあるから,それぞれに絵画のような芸術的個性と迫力がある.医学部を卒業して実家を離れ,出張病院を渡り歩いているうちに,音楽環境は急速にデジタル化され,CDやネットによる音楽の配信が中心になった.それに伴い,これらのレコードコレクションに触れることもなくなった.私の青春時代はまさにアナログからデジタルへの移行期に一致する.デジタル音は歯切れ良くクリアーであるが,最近ではレトロな真空管アンプで暖かみのあるLP盤の音色を聞くというマニアも復活しつつあると聞く.
私が研修医になった1980年代は,自動吻合器や自動縫合器が一般病院に出回り始めた時代である.胃全摘術の食道・空腸吻合や低位前方切除の結腸・直腸吻合を手縫いで行っている病院もたくさんあったが,使用してみれば自動吻合器の便利さは圧倒的であった.その後,腹腔鏡下手術が普及するとともに,通常の消化管吻合の多くが開腹下においても自動縫合器で行われるようになってきた.若い外科医の中には手縫いに慣れない者も多い.確かに器械吻合は手早くカッチリ仕上がり,たとえれば,デジタル配信された雑音の無い音楽ということになる.腹腔鏡下に吻合しようとすれば,器械吻合無しには手術は成り立たない.ガチャンと一発で吻合してしまうと,先達たちの数限りない手縫い吻合法の開発はいったい何だったのかと思う時もある.一方で,私の体には手縫いのアナログ感が染みついている.Gambee吻合がうまく仕上がった時の柔らかい感触は,真空管アンプを通して流れるLP盤の音に重なるものがある.多少縫合ピッチにムラがあってもご愛敬といったところか.手術法は時代とともに変化するが,手縫いも自動吻合もそれぞれに良いところがあり,外科医は両方に精通するべきである.というわけで,消化管吻合を横断的にまとめる良い機会と考え,本特集を企画した次第である.
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