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あとがき
田邉 稔
pp.518-518
発行日 2016年4月20日
Published Date 2016/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407211156
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今から30年前,私が研修医の時の肝切除といえば,命がけの大手術であった.肝葉切除ともなれば毎回大量出血に備え,手術当日の早朝から患者の身内や友人を20人ほど集め,昼までかけて生血を採取するのがわれわれフレッシュマンの仕事であった.研修2年目,初めての出張病院では,アッペ,ヘモ,ヘルニアを沢山経験させていただき,次はマーゲン,コロンと意気込むのが駆け出し外科医の風物詩であった.しかし,肝切除となると当時の外科部長でさえ滅多なことでは手が出せず,大腸癌の肝転移など発見しようものならば,患者家族を呼んで先が長くないことを伝えたものであった.
時は流れ,この分野の医療の内容は目覚ましく進歩した.切除不能大腸癌の化学療法では5-FU/LVでは13か月であった生存期間中央値がFOLFIRI/FOLFOX+分子標的薬では27か月と2倍になった.ひょっとしたら外科医の仕事がなくなってしまうのでは…と心配になるが,まだ化学療法にそこまでの効力はない.むしろ強力な化学療法によりconversion症例が増加し,かえって肝切除が増えているように見える.一方,肝切除の技術や周術期管理の進歩も目を見張るものがあり,超音波吸引装置,ソフト凝固ジェネレーター,腹腔鏡などの器具の進歩とともに無輸血大肝切除も“普通のこと”になっている.ここまで肝切除が安定すれば,二期的肝切除やALPPSなどのアクロバット手術が提案されるのも頷ける.
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