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欧米人と話をしていると,時々神の話が出てくる.文化,生い立ちの違いからわれわれ日本人はしばしば理解に苦しむ.先日フランスに出張に行った時に,フランス人,イタリア人,アメリカ人,日本人の外科医が集まってディナーを楽しむ機会があった.最初は学術的な話から始まったが,だんだんアルコールが回ってくると,ワールドカップサッカーやそれぞれのお国自慢の話題にどんどん移っていき,大変楽しい一時であった.宴たけなわの時に,イタリア人外科医が奥様との馴れ初めを話しはじめたのだが,何と彼は今の奥様と出会って3分で結婚することを決めたそうだ.日本人のわれわれには理解しがたい即断即決である.そのイタリア人外科医は“神”の話を持ち出した.ローマ神話に出てくる神の中にはアポロとミネルヴァという神がいて,アポロは感覚・本能・芸術の神であり,ミネルヴァは理論や戦略の神だという.自分はアポロの子孫だから一生の伴侶を3分で決められたというのが彼の主張であった.日本人的に表現すれば“ひとめぼれ”であるが,ローマ神話の神様の話を絡めると何だか格好が良い.さらに彼は,「論文を量産するのはミネルヴァ的外科医であるが,自分はアポロの子孫だから,感覚と本能で手術を全力でやってきた」と続けた.何と膵頭十二指腸切除を一人で1,200例やったと言うから,一同驚きとともに場は盛り上がった.
さて,私の恩師である島津元秀先生はこの3月で東京医大八王子医療センター消化器外科教授を定年でご退任されるとともに,本誌編集委員として今回最後の特集「肝胆膵癌の血管浸潤をどう治療するか」を組まれた.島津先生は言わずと知れた手術の名手であり,これまで数多くの困難な手術に挑戦されてきた.肝胆膵領域の手術で最後に問題になるのは「血管合併切除と再建」である.これをどのように克服できるかが,肝胆膵外科医の力量のバロメーターと言っても過言ではない.アポロ的な島津先生が最後に選択したアポロ的課題の特集,本号に期待して頂きたい.
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