私の意見
安楽死
横山 正義
1
1東京女子医科大学附属心臓血圧研究所外科
pp.78-79
発行日 1974年1月20日
Published Date 1974/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407205961
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小生の友人であるN君は医学部を卒業し,幾多のロマンスを経験して,卒後8年目にようやく結婚にゴールインした.ところが,結婚してまもなく腹痛がはじまり,ときには仕事をやすまなければならないこともあつた.当初は胃炎だろうとか酒の飲みすぎだろうくらいに考えていた.腹痛が徐徐に強くなるのでバリウムを飲んで胃透視をうけたところ,検査をしていた彼の友人の願は蒼白になつた.N君の胃はまぎれもなく高度に進行した胃癌だつたのである.レントゲン検査後,数日でN君は開腹手術をうけた.しかし胃癌はすでに腹腔全体に転移しており手術不能であつた,手術後N君には胃潰瘍で胃切をしたほかの患者の標本をみせ,「君の胃は全部切除したので大丈夫だ」と説明した.
N君の容態は急速に進行し幽門狭窄のため食餌はできなくなつた.腹痛も激しくなつた.そのうち肺炎を併発し喀痰が多くなつたので,主治医は気管切開を施行し,その部よりN君の気管分泌物を吸引した.しかし,呼吸は一日一日と弱くなるので,呼吸補助のため呼吸器を使用しはじめた.ブドウ糖,アミノ酸など経静脈栄養を連日施行した.静脈が閉塞するたびに新しい部で静脈切開をおこない点滴を継続した.この間,頻回に心電図をとり,強心剤や利尿剤を注射した.N君は病院内で評判がよかつたこともあり,全部の医師と看護婦はみずから彼の治療に参加した.
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