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緒言
1. 最近當外科に於て膀胱破裂の治驗例1,死亡例2を得たので,系統的に觀察を行うと共に多數の報告例を綜合し,茲に膀胱破裂の統計的觀察を試みんとする次第である。膀胱破裂の原因は,主として挫傷に因り鈍性外力が充滿せる膀胱部に加はつた時に起るものであり,破裂には腹膜外破裂と腹膜内破裂とあり,兩者を合併してる場合もある。腹膜外破裂の場合は前壁が,又骨盤骨折を伴う場合は膀胱底の破裂が多い。孰れにせよ膀胱の充滿度に正比例し,Berndtに依れば空虚な膀胱の破裂は甚だ稀とされてゐるが,此の時は恥骨縫際の上方から來る外力に依り骨盤腔内に押し込められた膀胱壁の上部は,其の特有なる反作用に由り破裂から守られ骨盤底に接する部分が破裂し易いものとされてゐる。墜落毆打等の直達外力や膀胱部以外に働いた外力が反作用(Contrecoup—Wirkung)として破裂を起すこともある。又妊娠分娩等の如き過度の腹壓増進に因る事もあり,比較的多く吾人の注意すべき原因としては人工的外科的に發生する場合で即ち尿道膀胱「カテーテル」挿入,膀胱結石截石術,膀胱鏡檢査,前立腺剔出術等に伴うものである。Baconが最近147例の膀胱破裂の症例を發表し,其の中實に40例を報告して居る。その内譯は前立腺剔出術23例,「カテーテル」8例,膀胱鏡4例,組織鏡檢4例,截石術1例であつて意外に多い。病的變化の在る膀胱壁が破裂し易いのは當然で肉柱膀胱,脂肪變性,膀胱憩室,中樞神經系疾患,大網膜や腸管の腫瘍形成等,或ひは麻醉時,化膿性疾患の經過中にも起る事がある。又高度の尿道狹窄,包莖等の原因もあるが,これは膀胱内壓が過度に高まつた爲であらう。飮酒酩酊が原因となる事も甚だ多く,Bartelsは35%,Baconは28.5%と報告してゐる。
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