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『脳神経手術管理法』が改訂された。初版が出たのは1974年のことである。脳神経手術の成否の鍵が,手技もさることながら,手術の前中後の管理にあることに気付く者は少なかった。本書は手術を成功に導く黒子の役割を果すべく計画された数少い専門書であった。以後10年,その歳月に斯くも瞠目したことは未だ嘗てなかったように思う。CTの出現は画像診断法の革命をもたらした。内分泌検査法の進歩は経鼻的下垂体手術を普及させた。血管病変の病態や治療に新しい動きがあった。CT誘導定位手術が発展しつつある。ベッドサイドモニターの様相が一変した。第2版では,このような時代の動向を反映し,新たに下垂体と末梢神経の章が設けられ,各章も全面的に書直され,面目が一新された。
「術前管理」では,集中治療室での経験に基づいて全身管理の重要性が指摘され,虚血性脳損傷の例によって,治療上,病態理解が如何に重要か,その意義が述べてある。治療の方向としてはbrain-oriented lifesupport (Safer)の考えが示されている。「意識障害」では,Plum&Posnerの考えが取入れられ,Glas—gow Coma Scaleや3-3−9度方式による具体的な意識障害評価法が標準的なものとなった。「脳腫瘍」では,時代を反映して,老人の脳腫瘍に頁が割かれている。「下垂体腫瘍」では経鼻手術法を中心とする管理法が要領よくまとめられている。「脳卒中」では,血管吻合術に関する記載が加わり,脳動脈瘤に関しては治療法が多数採り上げられている。「先天奇形」では,患児に対する愛情溢れる治療態度を学ぶことができる。小児疾患では,医師の指示のみで治療が全うできる訳がなく,看護婦と両親との慈愛に満ちた心配りが必要である。狂乱する両親には正しい知識を与える必要がある。水頭症や二分脊椎に関する小冊子が紹介されているが,これは両親,医師,看護婦の一体感と信頼感を盛上げるに役立つもので,諸家の参考となろう。小児で嫌なことはシャント手術の繰返しである。本書には細かく注意が書いてあり,初心者にも熟達者にも役に立つ。ひと頃,社会状勢のため「機能的脳手術」は著しく困難となり,その結果,脳深部の機能局在に関する脳神経外科医の知識は低くなり,内科医も外科的処置の存在を忘れてしまった。最近,CT誘導定位手術の発達に伴い,この手法も再復活のきざしが見える。従来の痛みや振戦に対する手術のほかに,脳腫瘍の生検や脳腫瘍内照射用の植込みを目的とするよう適応も拡がっている。ここではTodd-Wells型の装置を用いた手術の実際が,手に取るように事細かく記述されており,この方面を志す初心者には必読の入門書となろう。読物としても面白い。
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