書評
—編集 景山 直樹(名古屋大学名誉教授) 井村 裕夫(京都大学教授・内科)—下垂体腺腫
高倉 公朋
1
1東京大学
pp.614
発行日 1987年7月1日
Published Date 1987/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205930
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わが国では,下垂体腺腫の診断,検査法と治療をまとめた成書が無く,永らく期待されていたが,本書はその要望に応えて出版された好著である。
下垂体腺腫の診断についてみると,画像診断ではX線CTとMRIの登場で飛躍的な進歩を遂げ,一方内分泌機能検査の面ではradioim-munoassay法の普及に伴い,容易に,また正確に診断がつけられるようになり,治療経過も充分に追跡することが出来るようになった。病理組織学的には酵素抗体法の技術が確立したために,細胞レベルのホルモン産生の状態から,下垂体腺腫の病態を詳細に追求出来るようになっている。治療面では,顕微鏡下の経蝶形骨胴手術法により,下垂体腺腫が摘出されるようになったが,本法の利点は正常下垂体を残して,腫瘍だけを摘出可能にしたことと,開頭に伴うさまざまな合併症の発生を除いて安全な治療を進めることが出来るようになったことである。またbromocriptineの登場は,本腫瘍に画期的な治療の進歩をもたらした。Bromocriptineはprolactinの産生を制御するばかりでなく,腫瘍そのものの増殖を抑制して縮小する作用を持っているが,このような,ある腫瘍に特異的で,しかも確実な作用を有しながら,他の臓器にはほとんど影響を与えないような薬剤の登場はoncologyの面からも特記すべき優れた研究成果であると言えるし,腫瘍の治療だけでなく,内分泌疾患の治療の将来に大きなimpactを与える発見とも言えよう。従って下垂体腺腫の治療上,手術治療を行うべきか,内分泌学的治療で完結すべきかの新しい議論が持ち上がって来たわけである。
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