書評
—編集 伊藤 正男(東京大学教授) 祖父江逸郎(名古屋大学名誉教授) 小松崎 篤(東邦大学教授) 廣瀬源二郎(金沢医科大学教授)—小脳の神経学
柳沢 信夫
1
1信州大学
pp.330
発行日 1987年4月1日
Published Date 1987/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205886
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神経回路と細胞レベルの機能から,脳の複雑なはたらきと障害によって生ずる病態を説明し,それを証明することは,長い間の神経学者の夢であり研究の目標となってきた。その夢が現実となるもっとも手近なところにあるのが小脳であろう。小脳障害による運動症候は,AdréThomasをはじめとするフランス学派による詳細な記載と,GordonHolmesによる優れた分析によって確立され半世紀以上を経た。一方微小電極法により小脳の各種神経細胞の研究がすすみ,Cajal以来の形態学の成果による細胞と線維の構築にのせて華麗な小脳神経回路網の三次元構造が明らかにされたのは1970年代前半であった。この研究を推進した世界の中心にあったのが,本書の編集にあたられた伊藤正男教授であることは言うまでもない。
小脳神経回路網の全貌が明らかになったとき,これで小脳の機能は解明される,小脳症状の機序が明らかになると,われわれは期待に胸をおどらせた。しかし脳はたやすくその姿をわれわれの前にさらすことはしなかった。大脳をはじめ小脳とつながる神経構造が未知の壁として立ちはだかっているのである。しかしその広大な中枢神経系のはたらきを解明するためにも,また現在脳のはたらきの一般法則をうかがうためにも,小脳についての知見は大きな財産である。
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