連載 神経心理学史の里程標・6
Spurzheimと骨相学の余波
浜中 淑彦
1
1京都大学精神神経科
pp.810-811
発行日 1982年8月1日
Published Date 1982/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204987
- 有料閲覧
- 文献概要
Gallの脳器官学と頭蓋観学の影響が及んだ範囲が,メスメリズムの場合同様,19世紀において今日では想像を絶すろほどに広かつたことについては,既にMaine de Biran, Comte, Hegel, Schopenhauerの名をあげて触れる機会があつたが,今一つの例証は,今世紀初頭にドイツではたとえば精紳神経学のP.J.Möbius (1905),またフランスでは精神病理学のCh.Blondel (1913)といつた指導的学者が,Gallの学説について再評価を試み,あるいは博士論文を書いていることからも推し量られよう。わが国では森鷗外(1900)の紹介があることにも触れた。
Bouillaudを経てBrocaにいたる神経心理学の領域内での影響には改めて立入らないが,精神医学について言えば,部分的精神病の存在を想定するEsquirolのモノマニー(monomanie)学説が脳器官の複数性を唱くGallの説と密接な関連を有することは言うまでもなく,Lan—téri-Laura (1970)の指摘にみるごとくB.A.Morel (1809-73)の変質病論に骨相学の影響を見出すことも困難ではない。更には当初は経験的に行われていたTuke一家の人道主義的"moral treatment"やJ.Conolly (1794-1866)の非拘禁(non—restraint)療法に,一種の理論的根拠を与えるなど,19世紀イギリス精神医学に対する影響をも無視することはできない(R.Cooter:Med.Hist,.20;1,1976;W.F.Bynum:Med.Hist.,18;317,1974)。
Copyright © 1982, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.