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FreudがWienにあって失語論(1891)を著したと同じ年に, Pragでは初代精神神経科教授であったArnold Pick (1851-1924)は,てんかん発作後の一過性語聾の回復過程を研究(Arch. f. Psychiat.22;756-779,1891)して,これにジャクソニズムを適用し,皮質性感覚失語から反響言語を伴う超皮質性感覚失語,更に反響言語を伴わない超皮質性感覚失語を経て軽快するという言語了解の階層論を展開しつつあつた。門下から更に徹底したジャクソニスト O.Sittig-Jacksonの代表作の一つ Croonian lectures (1884)の独訳(1927)と失行論への適用(1931)などあり—を出したPickのこのような見解は,後に未完の遺作となった晩年の失語論(1924)にみられる言語=思考過程の階層論(詳しくは相沢他編「失語症の基礎と臨床」1981中の浜中論文参照)へと発展することになるが,"the great uni—versalist"(F. Stieglmayr 1973)と評されるPickの広い視野は,脳病理=心理学:論文集(1908)を捧げたWernikeの古典論を, MarieやHeadのごとく全く否定するものではなく,しかし他方では新しく登場しつつあったWürzburg学派の思、考心理学やゲシュタルト心理学(失文法論,1913),更には言語学(「失語と言語学」,1920)の方法を最も早い時期に神経心理学に導入したものであり,行動主義(Watson 1913)にすら無関心ではなかった。彼の生涯と業績の全体については既に述べる機会(浜中,精神医学,21;320—323,1979)があったのでここではあらためて立入らないが,彼の莫大な蔵は歿後アメリカのIowa大学図書館の所蔵(A.L. Benton 教授の私信)となっており,彼の失語論は J.Brown (1972-73) や O.Spreen (1973)によって復興,紹介されていることを指摘しておこう。
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