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Sternberg教授はモスコー精神医学研究所の老年精神病臨床部長であり,ソ連における老年精神医学の代表的な学者として,WHOの会議などにも活躍しており,同研究所のA.W.Sneznevskji所長が最も信頼する臨床医である。本書は老年精神医学の領域で「クレペリン精神医学を正しく継承」しようとするソ連精神医学の立場を示すものである。
本書の最も興味深い部分はソ連精神医学に関する部分であろう。総論中にもソ連のディスパンセールの活動で老人患者が増加していることと父系的3代家族の減少や老年人口の増加などとの関係が述べられている。心理テストについてのDavidowskiの批判や,記憶障害についてのAlelekowらの研究が挙げられているが,とくに役に立つのは著者が中心になつてWHOの国際疾病分類会議に提案した詳細な老年精神障害の分類である。この会議には私も出席して著者の講演を聞いたが,とくに特徴的なことは脳血管性精神病のうちに内因の加わったProtrahierte (endoforme) Gefasspsychoseを加え,脳委縮性精神病のなかに同様にendoforme Psychosynd—romeとしての老年精神病を加えていることである。各論ではAlzhe三mer病を老年痴呆の初期型とみなすソ連のShisiinの説や,老年痴呆の末期にAizheimerisier—ungが生ずる場合や,Sneznevskjiの病因論的に1つのものとみる説が挙げられている。とくに詳しいのは晩発性分裂病の問題であり,モスコーでの60歳以上の分裂病500例では女性が男性の3倍であり,カシチエンコ病院での分裂病患者の30%が50歳以上で初発しているという。また同院での205例の晩発うつ病でも女性が男性の3倍であり,このうち41%が60歳以上の初発だったとしている。内因精神病の晩発型と老年精神病との鑑別は多くの困難性を伴うが,ソ連精神医学が内因を重視していることは極めて興味ある課題であると思われる。本書はその意味でソ連の老年精神医の立場を明快に示している書物であると思われる。
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