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脳の機能におけるbehaviorの問題についての研究は,近年Fulton, Papez, Mac Leanらによつて主として動物実験を中心として行なわれ,情動行動と辺縁系limbic system,すなわちvisceral brainとの関連が強調されるようになつた。しかし,われわれ精神科医が対象とする"人間"では,精神機能を解剖生理学的な問題と直接結びつけて論じるにはあまりに事態が複雑である。人間には自己を反省する自我意識(self-conscious—ness)というものが,neocortexことに前頭葉機能の発達とともにめばえ,それが原始的な欲動(Trieb)の動きを大ぎく支配しており,自我をとおして情動行動(affective behavior)がcontrolされ, 抑制的あるいは促進的な形となつて表現されている。従つて,人間では,動物のようにprimitiveな,automaticな,いわば無意識的な欲動行動,すなわち,純粋な形の生物学的な動きとしてbchaviorをとらえるということはきわめて困難なわざといわねばならない。"自我をもつ人間においてはじめて真の性格(Charakter)というものが存在する"とLudvig Klagesは言っているが,われわれが,生物としての人間の精神機能を解剖生理学的に追究していく場合にも,その中心となるべきものは,それぞれの人間の性格,ないしは人格(personality)であり,いいかえれば,生物学的条件に対する各人それぞれの性格に基づく精神反応形式の動向ということになるのである。
私は,1947年以来,精神障害者に対して種々な術式による精神外科手術を行ない,その効果,長期予後の観察を続けているが,前頭葉手術の影響の核心をなす術後の人格像の変化の特微を次のように総括した。すなわち,(1)欲動およば情動の興奮性の滅弱,(2)感情の動きの単純,浅薄化,(3)感受性の減弱,(4)自我への関心の減弱,(5)自発性,創態性の減弱,(6)習得力の減弱,(7)抑制の減弱である。
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