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あとがき
荒木 千里
,
冲中 重雄
pp.62
発行日 1951年1月1日
Published Date 1951/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200170
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最近届いたWalsheのCritical Study in Neurolegy(1948)を手にして,ゆくりなくも14年米國にいた頃の一つの小さな出來事を思い出した。
1936年の秋私はニユウヘーブンに行つて,クツシングのBrain Tumor Registryでグリオームの組織標本を見せて貰つた。その時このRegistryの主任アイゼンハルト女史がQueen Squareのヘンダーン氏だといつて,一人の英國人の紹介してくれた。當時私はQueen Squareが何か知らなかつたので,特別敬意を表することもなく聞き流していた。その後2週間ニユウヘーブンに滞在中,私は時々えの人に出會つたが,彼はその都度何故か素知らぬ顏をしてソツポ向くので,挨拶することも出來なかった。この英國人も失禮な男だナと甚だ氣を惡くしたのであつた。その後英國の文献を色々讀んでいる中に,Queen SquareがロンドンのNational Hospital for Nervous Dis-easesの所在地であり,この病院が英國神經學の大本山であることを知つた。そしてヘンダーソン氏がQueen Squ-areを知らぬような男は口を利くも値せぬと,私を馬鹿にしたのも尤もだったと,大いに愧ぢ入つた次第である。試みにこゝにいた歴代の學者の名をあげは見ても,Brown Séquard,Hughling Jackson,Ferrier,Bernov,Gowers,Horsley,Bastian,Gorden Holmes,K. Wilson Washe等一流中の一流の學者ばかりではないか,この病院を知らぬでは,まるで問題にならぬのである。
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