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△腦外科方面で多く問題となつているテーマが二つある,一つは腦波問題であり,他の一つは前頭葉の外科である,前頭葉の外科はポルトガル國のLisboa大學のEgas Moniz教授の創意より始まるのである,同教授は前頭葉内に先づアルコールを注入して,前頭皮質を曠置状態に置こうとした人であつて,今日の白質切斷術まで發達したのである,昨年8月リスボアヌ同攻の學者が集り國際精神外科學會を創設發會した,比の中にはFreeman教授,Lima教授も見えている。此の際Moniz教授の横顔を素描するのも面白いと思う,同教授は腦動脈撮影の先驅者であり,同教授は數度ナトリウム液注入による,腦動脈撮影法をLa Press Medi-calel 927に發表された,小生も此の問題について研究していたので神川,柳澤と三人の名でLa Prosse, medical 1930に發表したのに對して,Moniz教授の討論を得たので,余と始めて知り合つた。その後小生が歐州に昭和7年出張した時に,早速マルセーユよりMoniz教授の許へ,リビエーラ見物後に訪問する由の手紙を出しておいて,Lisboiaについてみると非常に喜ばれ外科のdos Santos教授その他の教授にも紹介され,一日山の上の醫學部講堂で,小生の爲めに特別學會を開會され,又一日午餐に同教授邸の客となつた同教授は自分の研究している,動脈撮影法を外科のdos Santos教授にもやらせ,有名な大動脈撮影法を創始するにいたり,又肺動脈撮影法を内科の教授にやらせ,自分はそれ等研究の先頭にたつていた,Moniz教授は温順な學者で今は70才を越ていると考えられる,學生にも信頼され,同僚にも尊敬されている學者であり,今又前頭葉外科の創始者として輝やく研究に從事している,Moniz教授は精神病學の教授である,Moniz教授の健康を祈つてやまない次第である。(齋藤眞)
△米國には整理をする方法,技術を教える學校があると云うことを聞いたが,我々毎日臨床に教育に,研究に多くの時間と材料と努力を費つていながら,その一日の結果を丹念に整理しておかないために,後に至つて之を意のままに利用することが出來ず,何か必要にせまられると其場限りで何んとかごまかしてしまうことが多い。もつたいないことであると思つている。よく整理しておくことは何んとなく消極的な仕事に見え,また面倒くさいために,ついやりつぱなしにしてしまう。そのために,その日その日に頭を使つて考え,仕上げた仕事を無駄にしてしまうことが多いのではないかと思う。ブルグマン教室でX線室で見學をしていた時感心したことであるが1日100枚以上のX線ヒルムを現像すると,何人かのドクターが,自分が關係したヒルムについて,之をシアウカスチンで見乍ら,まだ記憶の新しいその日のうちに必ず仔細に所見を聲をあげて讀みあげる,その側にタイピストが控えていてその記述を全部タイプにとつてしまい,之をそのヒルムと共に所定の所に藏してしまう,かくして全部のヒルムを完全に整理してしまう,面白かつたことは,タイピストが一寸用事があつて席をはづすと,ドクターは簡單なマイクロフオンを通じてタイピストの席をはづした間の記述をレコードに吹き込めるようになつている。タイピストはそのブランクになつた所はそのあとで直ちにレコードにかけドクターの聲を再製させ,それを忽ちにタイプに打つてしまう。ドクターはその間全然無駄な時間はなく,自分の受け持ちの分を聲で記述してしまうと,さつさと歸宅してしまう。タイピストも無駄なく直接に又はレコードによつてタイプして之を一々のヒルムについて整理してしまう,一寸昔の事であるが,少なくとも日本ではこうは行かない。米國あたりではもつと行きとどいた仕組みになてついる事と思うが,一事が萬事であり,我々は完了した仕事をもつとよく整理し,之を後の役に立たせるために,もつと時間をさき,其日其日を勤勉に整理して行かねばならないと痛感している。
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