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はじめに
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の鑑別は,臨床医にとって最も緊張する知的チャレンジであると同時に,患者にとっても死の宣告がかかった重要な場面といえる。一方,治療可能である多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)は,1982年のLewis, Sumnerら1)による持続性伝導ブロックを伴う多巣性脱髄性ニューロパチーの報告以来,ALSとの鑑別上きわめて重要な病態であることが強調されてきた2)。その後一部の症例で抗GM1-IgM抗体が上昇することが示され3),治療には大量ガンマグロブリン静注が奏効することが報告され4),両者の鑑別は死に至る病か,治療可能な病態かの決定を意味することになった。実際の鑑別のためには,伝導ブロックを証明することが最も重要である。
一般的に,末梢神経障害では大半のポリニューロパチーがそうであるように,感覚障害を伴う。ところが,多巣性運動ニューロパチーは末梢神経障害でありながら,感覚はおかされてないか,軽微な障害で終わる。このことが,本症の診断を困難にしてきた。しかし,同様の解離は,例えばGuillain-Barré症候群において,脱髄型(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy:AIDP)でも運動神経の症状が優位であることにもみられる。その軸索型であるAMAN(acute motor axonal neuropahty)では,軸索変性が運動神経のみにみられる。
髄鞘は運動・感覚神経とともに同じSchwann細胞がつくる。したがって,髄鞘の構成成分であるミエリンには,運動神経と感覚神経の間に差異は認められていない。何故,脱髄性のニューロパチーが運動神経に優位にみられるのか?最近になりこの疑問に答える重要な知見が得られている。
本稿ではまず,神経伝導に関する新しい知見から解説し,多巣性運動ニューロパチーの病態生理,臨床診断について概説する。
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