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今月号は自殺に関する話題を特集として取り上げた。周知のように本邦では自殺が交通事故死を上回って久しく,10年近くもの間,自殺者数が年間3万人を超えて推移しており,先進国のなかでも高い自殺率を有する国である。当然国民の関心も高まっており,国を挙げてその対策に乗り出しているもののいまだ目に見える効果が上がっているとはいえない状況である。自殺に対する対策としてはさまざまな専門分野からのアプローチが必要であるが,医学のなかではとりわけ精神医学が重要な役割を担わなければならないことは言をまたない。そこで今回は,精神医学の見地から自殺の今日的な状況について概観することを目的に特集を組んだ。特集ではまず,自殺と精神障害あるいは身体疾患との関係について最新のデータを示しながら解説していただき,医療における自殺の基本的な位置づけについて整理し理解を深めた。次に自殺の生物学的な側面に焦点をあて,セロトニン,ストレス反応と神経系,関連遺伝子や中間表現型などとの関連について解説していただいた。また,自殺に対する対策としては予防,危機介入,再企図予防,遺族への支援,などが考えられるが,再企図予防と遺族・自助グループについては,実際に臨床の現場で取り組んでいる試みとその現状について報告していただいた。最後に,企業などの職場における産業保健の立場から現在の状況と今後の課題について解説をいただいた。以上が今月号の特集の概略であるが,今回の企画はいうまでもなく,自殺に対する精神医学からのアプローチの端緒に過ぎない。今後は臨床や職場,あるいは地域や学校といった現場の実情を踏まえて,自殺の予防,危機介入,再企図予防などに取り組んでいる成果が少しずつ報告されていくことが期待される。そして,そのような地道で忍耐強い実践を経ながら,自殺に対する理解がさらに深まり,その結果として自殺の予防や支援が適切に行われることを祈念している。今回の企画がそのような遠大な目標への一歩になることができれば幸いである。
さて,本号が刊行される頃は秋も深まり,いよいよ読書に食に運動にふさわしい季節を迎えていることと思われる。一方では時期的に,新型インフルエンザに加えて季節性インフルエンザの流行も気になるであろうが,だからこそ秋の夜長にじっくりと読書にいそしみたいものである。 (M.H.)
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