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本号の「研究と報告」には今日的なテーマを扱った論文が3本並んだ。まず自殺がテーマである。自殺既遂者の総数は1998年以来,30,000人を超えて持続しており,そのような背景の中で2006(平成18)年には議員立法として自殺対策基本法が制定され,大きな社会問題となっていることは周知のことである。精神医学も自殺対策の先頭に立って活動することが求められる臨床・学問領域であるが,精神医学関連の雑誌でも最近,自殺をテーマにした論文をよく目にするようになった。本号では,都立病院の精神科を臨床の場とした自殺に関する研究報告が掲載された。自殺予防や再企図防止に有効な手立てを確立するためには,このような基礎的なデータと臨床実践からの報告の積み重ねが不可欠であると考えられる。次は,認知症に関する知見である。特発性正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症のSPECT所見からの鑑別に関する論文であるが,高齢化社会に突入しているわが国では今後の症例数の増加を考えると日常臨床に密着したテーマといってよい。論文中にも述べられているが,両者では治療法が異なるだけに,我々臨床家に対して追試を含む臨床的な確認を求められていると言ってよい。3番目が統合失調症に対するスティグマの問題である。スティグマは古くて新しい問題であるが,統合失調症に対する生物学的な研究が進み,疫学調査,遺伝子解析,画像研究や精神薬理学など障害の本態に迫る知見が発見され,科学的な解明が進んでいる現在だからこそ改めて問うてみる価値のある問題であると考えられる。
「短報」ではブロナンセリンに関する臨床的な経験が2本続けて報告された。ブロナンセリンは本邦で使用可能な6種類の第二世代抗精神病薬の中で一番新しく登場した薬物である。使用経験はまだ少ないために,知見の蓄積は患者さんのためにも不可欠な作業である。
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