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はじめに
障害年金診断書を記入した経験は大多数の精神科医が持っていよう。
社会保険庁の資料によれば,1998(平成10)年の障害基礎年金(国民年金)受給者1,087,872人中46.7%にあたる508,310人が知的障害を含んだ精神の障害による受給である。精神の障害のこの数値は障害基礎年金受給者の中で最大のカテゴリーとなっている。厚生障害年金では同じく1998(平成10)年で223,868人の受給者中16.9%37,756人が精神の障害による受給である。厚生障害年金では精神の障害は脳血管障害について2番目に大きなカテゴリーである。知的障害を除くと多くの精神の障害では障害が変動するために数年ごとに診断書が記入され認定審査が行われるので,新規申請を除いても平均して3年ごとに診断書が記入されるとすれば,1年でおよそ9万人弱分の障害年金診断書を日本の精神科医は記入していることとなる。さらに障害年金の請求申請を希望する障害者は増えてきている。2000(平成12)年から2001年にかけての1年間で障害基礎年金受給者数はおよそ4万人強増えている11)。
障害年金診断書は障害年金制度における障害disabilityを認定するための診断書であり,疾患の状態を証明する診断書ではない7)。したがって,精神疾患による障害に関する認識が記入する精神科医に強く要請されているといえよう。
一方,世界保健機関(WHO)は1980年に国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps;ICIDH)22)を公表したが,その後の20数年間でこのICIDHを障害認定基準に採用したことを明記しているのは,フランスにおける福祉領域の障害認定基準だけであるとされる21)。わが国でも障害年金の障害認定基準はICIDHに関連する改定は昨2002年まで行われてこなかった。しかしながら,1992年に発表されたWHOの国際疾病分類第10版(ICD-10)第5章(F)精神および行動の障害では,その序論でICIDHの用語法(Impairment, Disability, Handicap)を取り上げており,機能障害と能力障害の一部がこれまで症状と考えられて,診断基準の中に使用されていること,Handicap(社会的不利)は文化的影響を強く受けるために診断基準には含めないことが指摘されている23)。このようにICD-10においても国際障害分類ICIDHが活用されている。さらに,1995年に新設された精神障害者保健福祉手帳では障害認定について疾患および機能障害が存在することを確認し,能力障害を中心に総合的判断を行って判定することとなっており9,10),ここではICIDHの障害構造を強く意識した基準となっている。精神障害者ケアガイドラインでは,ICIDHとの関係は検討項目として示されている1)。
このような点から見ると,精神の障害領域では機能障害によって判定することが多い他の障害よりも先行して,ICIDHの障害構造を意識した診断基準と障害認定基準の制度化が行われてきた経緯がある。このように国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)24)の前身であるICIDHは精神の障害に関する障害認定にその総論である障害構造が応用されてきていた。
そして,昨年2002年3月に障害年金認定基準の改定があった。精神の障害領域における主要な改定点はICIDHの機能障害Impairmentによる区分が能力障害Disabilityによる区分に変更されたことであった。本稿では精神の障害に関する障害年金認定基準および2002年改定を中心に検討することを通じて,ICIDH,ICFとの関連について考察することとしたい。精神の障害に関する障害年金制度全般に関しては,本稿で解説するには紙数も不足するため,社会保険庁17,18),全国精神障害者家族会連合会(全家連)25)などが発行している解説書を参考にしていただきたい。
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