Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
緒言
今世紀半ばのDNA二重らせん構造の解明を端緒に,近年飛躍的に発展した分子生物学,遺伝学,さらに遺伝子工学の知識なくしては,21世紀の到来を直前に控えた現在の医学を論ずることは不可能である.すなわち,ヒトゲノムプロジェクトによる染色体上の全遺伝子の構造解析がついに最近ほぼ完結し,今やあらゆる疾患の病因や病態は分子レベルで解明され,さらに原因遺伝子の明らかにされた疾病の遺伝子診断,そしてこれらの知識の集大成としての治療への応用と,医学の発展はとどまるところを知らない.このような背景をもとに,本稿ではこれら新しい医学の治療への臨床応用の主体をなす「遺伝子治療」の有する診療的意義,さらに呼吸器疾患領域に関しての現状と,遺伝子治療自体の内包する諸問題について概説する.
まず,遺伝子治療とは遺伝子の欠損または機能不全を呈する疾患患者の標的臓器細胞内に,正常機能あるいは治療的効果を発揮する遺伝子を導入し,その病態の改善,さらにあわよくば治癒を目論む治療法である1〜3).ヒトに対する遺伝子治療の最初の臨床試験として,1990年9月からアデノシンデアミナーゼ(ADA)を先天的に欠損した重症複合免疫不全症患児に,正常なADA遺伝子cDNAをex vivoで導入され増殖した自己リンパ球が投与された1〜3).さらに,家族性高脂血症患者へのLDL—受容体遺伝子導入4)や,後述する?胞性線維症(cystic fibrosis, CF)患者への正常CFTR(ABCC7)遺伝子のin vivo導入など,当初は単一遺伝子異常に起因する先天性疾患の治療法として研究が進められた.その後,悪性腫瘍や動脈硬化性疾患,後天性免疫不全症候群(AIDS)などの後天性疾患がその対象に加えられ,現在ではむしろこれらが主要な対象疾患となっている.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.