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COPD発症への遺伝的因子の関与
COPD(chronic obstructive pulmonary disease)の発症に喫煙が強く関与することは明らかであるが,同程度の喫煙量であっても,肺機能障害と気腫性変化には著しい個人差が存在する.図1aは本院外来通院中で年齢50歳以上,10pack-years以上の喫煙歴を有し,喘息,肺線維症など他の呼吸器疾患に罹患していない,軽症から重症までのCOPD患者168名における生涯喫煙量と胸部CT上の気腫性変化の関連を示したグラフである.1pack-yearは1日20本を1年間喫煙した場合の喫煙量を表し,例えば40本/日を10年続けた場合,20pack-yearsと計算する.また,LAAスコアは胸部CT上の気腫性変化を視覚法により24点満点で評価したもので,0点ならば気腫性変化なし,12点ならばおおよそ半分近い肺野が気腫性変化を来した状態と考えられる.図1aより,50歳以上で,10pack-years以上の喫煙歴を有する場合,生涯喫煙量とLAAスコアの相関は極めて弱く,個々の喫煙感受性の違いが気腫性変化の進展を大きく左右するものと推察される.この差が,少なくとも部分的には遺伝的因子に起因することを示唆する多くの報告がある.
初めにこの可能性を明らかにしたのは,α1-antitrypsin(AT)欠損症における若年発症重症肺気腫の報告である1).しかしながら,AT欠損症による肺気腫患者は欧米でも全体の1~2%にすぎず,わが国ではその頻度は著しく低い.また,AT欠損症においても,喫煙による肺気腫の進展の程度には個人差が認められる2).したがって,AT欠損症以外の遺伝的因子の存在とその重要性がクローズアップされるようになってきた.これまでにCOPDの家族集積性を示すいくつかの報告がある.約1,400家族の5,000人余りの米国人を対象としたFramingham Studyにおける分離分析では,肺機能の変化に家族集積性は認めるものの,1秒量は単一遺伝子ではなく,環境因子と多因子的な遺伝的影響のいずれか,もしくは両方により決定されると報告された3).また,Silvermanらは,若年重症COPD患者の一親等の家族が喫煙者である場合,コントロールの喫煙者に比べ有意に肺機能が低下したと報告した4).双生児の肺機能の比較においても,一卵性では喫煙により同等な肺機能低下を認めたのに対し,二卵性ではこの傾向は認められなかった5).こうした遺伝的影響は人種間での喫煙感受性の差に反映されると考えられる.白人においては,10~20%の喫煙者に臨床的に明らかな肺機能低下が出現すると考えられているのに対し,黒人やアジア系人種においてはその割合は若干低いと予想されている6).ハワイにおいて,45~54歳までの1日20本以上の喫煙者の中で閉塞性障害を認める割合は日系アメリカ人で7.9%に対し,コーカサス系アメリカ人では16.7%と報告されている7).
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