Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
血液は血小板の粘着,凝集と凝固カスケード活性化を介したフィブリン生成による血栓形成機構により,血管破綻,出血時に止血に働く.血液凝固カスケードは一連の増幅反応系(図1)により,わずかな刺激が爆発的な勢いで増幅されながら伝えられる.凝固カスケードの最終産物であるトロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに転換させ,さらには血小板の活性化などの多くの活性を有し,凝固反応の中心的な役割を演じている.この止血反応に備え,血小板,フィブリノーゲン,各種凝固因子は,必要量の数倍から数十倍が血管内に貯えられている.一方,これに対してアンチトロンビンIII(AT III),プロテインC,プロテインSに代表される凝固抑制系の因子は予備能が少なく,正常時の70%以下になれば血栓が起こりやすい状態となる.そういう点では血液自体は易血栓性に傾いているため,血栓促進因子の出現や抗血栓因子の低下などの要因により容易に向血栓状態になり,血小板,凝固系の活性化から血栓準備状態に移行する.
従来より臨床的な血栓の形成には,血管壁の異常,血液成分の異常,血流の変化が重要な3要素としてあげられており,これらのバランスが破綻することにより,血管内は血栓傾向に傾くと考えられている.本稿では論述する心房細動(AF)においても例外ではなく,機能的心房収縮の欠如による心房内の血流うっ滞,血流変化による血管内皮の抗血栓性の低下,血液成分の性状などの変化により,血管内は血栓準備状態に傾き,臨床的な血栓塞栓症と関係する.凝固,線溶,血小板活性化は凝血学的分子マーカーにより反映され,これらのマーカーを測定することにより,AFの病態の把握への手がかりとなるとともに治療効果の判定に有用となる.以下に血小板,凝固線溶系と分子マーカーとの関連を概説し,AFにおける分子マーカーの変化から検討した血栓形成のメカニズムをわれわれの知見をまじえ言及するとともに,亘皿栓塞栓症の発生の予測や治療評価に対する現時点での知見ならびに今後の展望を述べる.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.