Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
心房細動は,心房期外収縮,心室期外収縮に次いで日常臨床で最もよく遭遇する不整脈の一つである.その罹患率は全人口の0.4〜0.9%と推測される.Framingham studyでは1),5,184名の30年間追跡調査で弁膜症を伴わない慢性心房細動発生が303名(5.8%)に観察されている.発作性心房細動の発症率はこれと同等もしくはそれ以上と推測されており,心房細動全体として考えると,その発症率はさらに増加する.本邦における前向き研究のデータはないが,剖検例に基づく報告では慢性および発作性心房細動が全体の約15%と高い数字が報告されている2).さらにこれらの心房細動の罹患率,および発症率は,慢性,発作性のいずれにおいても加齢に伴い著明に増加することが特徴である.今後高齢化人口は当然増加し,それに伴い心房細動を日常臨床でみる機会はますます増加することが予想される.
心房細動それ自体は,通常WPW症候群に伴うもの以外は不整脈として致死的にはたらくことはない.しかし,だからといって心房細動を従来考えられていたような良性の不整脈として考えるには問題がある.最も注意しなければならない点は,その合併症としての血栓塞栓症である.心房細動に伴う脳塞栓症の発生頻度は,他の危険因子にも依存するが年率0.5〜5%と報告されており,心房細動のない場合に比べて約5倍に増加するとされる.無症候性脳梗塞を含めるとさらに頻度は増加し,脳血管障害歴のない心房細動患者の約半数で脳CTで梗塞病変を認めたという報告もある.したがって,脳梗塞の原因疾患として心房細動はきわめて重要である.
このように高い罹患率と発生率,さらに合併症としての血栓塞栓症の高い発生頻度から,現在では心房細動は積極的に治療,管理すべき疾患として考えられるようになった.特に脳梗塞後介護が必要になることが多いことを考えると,心房細動の発生を予防することで脳梗塞患者の発生を減少させることは社会的にも重要なテーマともいえる.しかし,一方でわれわれ医療者サイドがその治療として持てるmodalityはいまだに少ない.最近になり心房細動を生じる基質としての心房筋の性格そのものが,心房細動それ自体によって影響されること(remodeling)が明らかにされ,このremodelingを抑止することで心房細動の慢性化を予防し,ひいてはその罹患率を低下させることができないかと期待されている.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.