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日本人の高齢化が急速に進んだため,高齢者の医療にいろいろの問題が生じ,従来の方法を変えざるを得ない時期に来た.診療面では高齢者は多病が普通であり,このため1人の患者で1疾患の治療は少なくなり,患者の全身状態と臓器間の負担のバランスに重点を置いて治療が行われるようになった.このなかで患者のQOLを強く制限し,介護を要するのは,第一に脳機能低下による痴呆である.この対策はすでに社会問題化して処置されている.これに次ぐのは心機能低下による心不全であると思われるが,これは医療内のこととして扱われている.心不全は加齢とともにその頻度を増し,高齢では著増する.ちなみに最近の英国の調査では,心不全患者の年齢の中央値は75歳であり,新しい患者の発生率は人口1,000人に対し年間,35〜44歳で0.2人,85歳以上では11.4人と高齢で著しい.
これに対し,高齢者では心不全の対策も変化してきた.従来左室収縮機能低下とこれに起因する症状という観点から心不全は検討されてきた.しかし高齢者の場合,左室拡張機能低下だけでも心不全が発症する.収縮機能低下の場合も,拡張機能低下の場合もともに患者のQOLを損うことは同じであるが,経過や予後は後者の方がやや良いようである.Philbinらは左室駆出分画40%以上で,左室拡張機能低下による心不全の場合,6カ月の累積死亡率は22%,再入院率は43%としている.一般に心不全患者の日常生活について,QOL指標(Minnesota living with heart failurequestionnaireなど)と運動能力(ATなど)とは関連がみられていない.高齢者ではさらに日常診療でも明らかであるが,骨格筋の筋力低下や関節機能の低下などにより,心不全以前に運動能力は低下しており,日常生活の上で心機能低下による運動能力低下は意識されずに過していることが多い.これに対して,心不全の運動療法も行われているが,QOLの改善を目標とした場合,PeakVO2の60%以下の運動量で長期継続すれば改善があり,また心事故の発生率低下が示されている.高齢者心不全の薬物療法も検討されている.高齢者では慢性心不全の急性増悪による急性心不全がしばしば経験される.この場合は救命が第一目標となるので,治療法は若年者の場合と差はない.慢性心不全について,一般に使われているACE阻害薬は高齢者でも同等の効果がみられる.β遮断薬についても,左室拡張機能低下による心不全に対し,若年者の場合に相当する効果が得られると報告されている.
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