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はじめに
心臓は,常に収縮・弛緩を繰り返しているため,心筋酸素需要は他の臓器に比べ高い.このため,心筋への酸素供給を司る冠血管トーヌス調節は,心臓のホメオスターシスを保つために特に重要であると考えられる.実際,冠動脈硬化の進展により容易に心筋虚血が生じるが,この時アデノシンやプロスタグランディンなどの冠血管弛緩物質の遊出により,冠血管弛緩が引き起こされ,心筋虚血が軽減することが知られている.
血管は外・中・内層の三層構造を有しており,外膜に存在する交感・副交感神経による支配および血管内腔側からの体液因子による支配を血管中膜平滑筋が受け,冠血管トーヌスを調節している1).このとき,血管内皮は血管内腔血液に含まれる物質の透過性に関与することから,血管作動物質の平滑筋への作用を受動的に調節することは知られていたものの,直接的に冠血管平滑筋トーヌスを制御しているとは考えられていなかった.ところが1980年,Furchgottら2)は,血管内皮細胞より血管弛緩物質(endothelial-dependent relaxing factor)が遊出し,冠血管平滑筋弛緩を惹起することを見出し,冠血管内皮細胞が冠血流調節に関与することを示唆した.さらに,Mon—cadaやIgnarroらの研究3,4)により,一酸化窒素(NO)がこのEDRFと全く同等の特徴を有することから,EDRFの本体はNOであることが明らかとなった.現在では,NOは,NO合成酵素によりアルギニンがシトルリンに変化する際に産生されることが明らかになっている.最近になって,種々の方法にてNOおよびその代謝産物の測定が可能となり,また特異性の高いNO合成酵素阻害剤が開発されたため,NOの冠血流調節における意義が生理学的・薬理学的に評価可能となってきた.そこで本稿では,心筋虚血におけるNOの役割について論じ,虚血性心疾患の病態・治療法の新しい展開を考えたい.
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