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はじめに
慢性心不全の克服は,循環器病学における最も重要な課題の一つであるが,ここ十数年の間にその病態把握・治療確立のstrategyを考えるうえで重要な三つの大きな変化が生じた.まず第一点は,ほとんどの心血管疾患の発生率・死亡率が低下しているなかで,慢性心不全の罹患率が増加していることである.これは,末梢血管拡張剤による負荷軽減療法の出現や,種々の強心薬の開発により,急性心筋梗塞によるポンプ失調や慢性心不全の急性増悪による急性心不全死が減少したため慢性化する割合が増えたためと考えられている.第二点は,慢性心不全の病態が,単に心筋収縮性低下のみで説明がつかないことである.交感神経活性の充進,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進が慢性心不全の病態に重要な役割を果たしていることが明らかになり,これらの神経・体液因子の過剰な作用が慢性心不全の予後を悪化させること,またこれらの作用を抑制すれば,その予後が改善することが示されつつある.さらに近年,サイトカインや免疫系異常がその病態に関与することが報告されており,慢性心不全は,単に心臓病ではなく,全身疾患としてとらえられつつある.第三点は,慢性心不全の治療目的の変化である.1970〜80年代には,患者の症状と運動耐容能を改善することがその主たる目的であったが,80年代後半からは,生存率改善およびquality of life改善へと,その治療目的は大きく変化した.さらに近年,慢性心不全の症状とその運動耐容能を改善する治療が必ずしも生存率の向上に結びつかないことも認められつつある.
このような慢性心不全の病態理解・治療戦略の変遷のなかで,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の役割が大きくクローズアップされてきた.これは,1)レニン・アンジオテンシン系の亢進は後負荷を増加すること,2)レニン・アンジオテンシン系を阻害するangiotensinconverting enzyme(ACE)阻害剤が,慢性心不全症状・運動耐容能を改善し,その生命予後を改善することが大きな原動力となった.
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